
「圧縮記帳」ということばを聞いたことがありますか?不動産を売却して利益が発生すると、税金も発生してしまいます。そんな時、利益があっても税金の支払いを先延ばしにできるのが圧縮記帳です。しかしなぜ先延ばしにできるのか、その税金はいつ支払うか、など気になることでしょう。本記事ではそんな圧縮記帳について、詳しく解説します。
不動産売却における圧縮記帳とは?
簿記を学んだことがある方は、圧縮がどんなものなのか知っている方もいるかもしれません。圧縮記帳は元々、企業が固定資産を購入した時などに使う会計処理ですが、個人の不動産売却時にも使える方法です。
圧縮記帳って何?
不動産を売却して、利益が出た場合、その利益に応じて所得税や住民税といった税金を支払う義務が生じます。不動産を売って得たお金で別の不動産を購入しようと思っていても、せっかく得た資金が税金の支払いで減ってしまい、資金不足になるケースも多いようです。
そんな時に利用したいのが圧縮記帳です。不動産売却においての圧縮記帳は、売却時に発生した課税所得となる利益を先に繰り延べて、課税所得を一時的に減らすものです。
つまり、圧縮記帳を利用すれば、税金の支払いを遅らせることができるのです。
税金の支払いは、あくまでも先延ばしにするだけなので、後で税金を支払う義務は変わりません。しかし、資金繰りを楽にし、売却時の負担を減らせることになります。
ただし個人の場合、この圧縮記帳は不動産を売って得た利益によって別の不動産を購入した時にしか使えませんので、注意が必要です。
圧縮記帳して支払いを遅らせた税金はいつ支払う?
圧縮記帳が、税金の支払いを遅らせる方法であることはわかりましたが「でもその税金はいつ支払うの?」という疑問がわいてくることでしょう。税金の支払いは、買い替えで取得した不動産を売却する時に行うことになります。
つまり、新しく不動産を取得する時には資金繰りが楽になりますが、それを売却する時には先延ばしになっていた税金の支払いもあり、まとまったお金が必要になるというわけです。
不動産売却における圧縮記帳のメリット
圧縮記帳では、税金の支払いを先送りできるだけで、結局は後から支払わなければなりません。それならすぐに支払っても同じでは?と考える方もいることでしょう。税金の支払いを先送りできることに、どんなメリットがあるのでしょうか?
圧縮記帳を利用するとどんなメリットがある?
圧縮記帳では、なによりも売却益を手元に多く残せることがメリットといえるのではないでしょうか。
不動産を売却して、新しい不動産を購入しようと考えている場合、少しでも多くの資金を手元に残しておきたいものです。圧縮記帳によって不動産を取得した年の税負担を軽くすることで、新しい不動産取得への負担軽減につながります。
また、どうしてもすぐに新しい不動産への買い替えが必要だけど、今は資金繰りが厳しい…といった、税金の支払いを後回しにしたいケースもあるでしょう。そんな時、今すぐに支払わなくていいというのは大きなメリットになります。
税金というと、利益の数パーセント程度のものをイメージするかもしれません。しかし、高額な不動産の売却で得た利益にかかる税金は、想像以上に大きなものです。
正確にいえば、売却で得た利益は譲渡所得と呼ばれ、仮に譲渡所得が500万あったとすると、所有年数によっても異なりますが、100万から200万近い税金を支払うことになります。500万の利益が出て、手元に300万しか残らなかったら、購入したいと思っていた不動産へ充てる資金も不足する可能性があるでしょう。
また、不動産が思ったほど高値で売れず、売却益が手元に少ししかないという場合にも、税金の支払いでさらにお金が減ることがないため、有効な方法といえそうです。
圧縮記帳を利用するデメリットもある?
圧縮記帳にはメリットだけでなく、デメリットもあります。不動産取得した翌年以降に納める税金が増加する点は大きなデメリットです。
圧縮記帳した部分にかかる税金は、複数年に分割して支払うことになります。圧縮記帳で先送りにした税金の支払いは、圧縮記帳して購入した不動産を売却する時に支払う必要があり、減税ではないという点に注意が必要です。
先送りしたから安心というわけではなく、翌年には大きな支払いが生じることを覚えておきましょう。また、自分にとってどのタイミングで税金を支払うのがベストかをよく見極め、資金計画を練る必要があるでしょう。
不動産売却における圧縮記帳を利用する方法
ここまで圧縮記帳について説明しました。圧縮記帳については何となく理解できたけれど、いまいちイメージがわかない…という方もいるでしょう。そこでここでは、具体的な利用例をご紹介します。
仮に、2,000万円で購入した不動産を3,000万円で売却したとすると、利益は1,000万円です。この時、通常ならこの1,000万円に所得税や住民税が発生します。
しかし、ここで売却益1,000万円を使って別の不動産を購入したとします。すると、残金はどうでしょう。売却益1,000万円は購入費用と相殺されることで0円になります。
利益が0円ということは課税対象となる所得が0円ということになり、税金がかからないのです。このように、個人では不動産売却で得た資金を利用して、新たな不動産を購入する場合に利用できる方法です。
まとめ
圧縮記帳は主に、法人の会計においてよく使われる方法です。仕組みが少々複雑なことから、利用者は多くはありませんが、個人の不動産売却時にも利用できるので、このような税金の支払いを先送りできる方法があることを知っておくだけでもよいでしょう。
不動産売却の際は、圧縮記帳を利用する方が得か、利用せずに税金を先に支払う方が得かを、資金繰りの状況から慎重に検討する必要があります。今回紹介した、圧縮記帳のメリット・デメリットを参考に、上手に活用しましょう。